和歌と俳句

千載和歌集

釈教

式子内親王
ふるさとをひとり別るるゆふべにも送るは月のかげとこそきけ

摂政前右大臣兼実
人ごとに変はるは夢のまどひにて覚むればおなじ心なりけり

宮内卿永範
澄めば見ゆ濁れば隠る定めなきこの身や水にやどる月かげ

法印慈円
いとどしくむかしの跡や絶えなんと思ふもかなし今朝の白雪

返し 尊円法師
君が名ぞなほあらはれん降る雪にむかしの跡はうづもれぬとも

左近中将良経
ひとりのみ苦しき海を渡るとや底を悟らぬ人は見るらん

藤原隆信朝臣
くれ竹のむなしと説ける言の葉は三世の仏の母とこそきけ

摂政家丹後
むなしきも色なるものと悟れとや春のみ空のみどりなるらん

前中納言師仲
長き夜もむなしき物と知りぬれば早く明けぬる心地こそすれ

円位法師
鷲の山月を入りぬと見る人は暗きにまよふ心なりけり

神祇伯顕仲
いさぎよき池に影こそ浮かびぬれ沈みやせんと思ふわが身を

寂超法師
朽ちはつる袖にはいかが包まましむなしと説ける御法ならずは

藤原資隆朝臣
見るほどは夢も夢とも知られねばうつつも今はうつつとおもはじ

登蓮法師
おどろかぬ我が心こそうかりけれはかなき世をば夢と見ながら

寂蓮法師
あかつきを高野の山に待つほどや苔のしたにも有明の月

式子内親王家中将
思ひとく心ひとつになりぬれば氷も水もへだてざりけり

前大納言時忠
たのもしき誓ひは春にあらねども枯れにし枝も花ぞ咲きける

藤原伊綱
春ごとに歎きしものを法の庭ちるがうれしき花もありけり

左京大夫季能
み草のみしげき濁りと見しかどもさても月澄む江にこそありけれ

皇太后宮大夫俊成
武蔵野の堀兼の井もあるものをうれしく水の近づきにける