さ夜ふけてくらぶの山のほととぎす行方もしらずなき渡るかな
夕されや空もをぐらのほととぎすありすの山に聲なしのびそ
金葉集
五月雨にたま江の水やまさるらむ葦の下葉のかくれゆくかな
夏ながら泉涼しき宿にては秋たつことをいかでわくらん
いとどしく忘られぬかなにほひくる花たちばなの風のたよりに
風よりも月の影こそ涼しけれ夜はふくともいらずもあらなむ
ほととぎす今もなくなりをぐら山ふもとの里に人やまつらん
五月雨の頃になりてぞほととぎすおとはの山におとづれはする
いさり火のなみまわくるにみゆれども染川わたる 蛍なりけり
なにとなき人だに秋は待たるるを七夕いかに日を数ふらむ
うたたねの寒くもあるかなからころも袖の裏にや秋のたつらむ
庭のおもにうつろふ花のいろいろにくまなくみゆる秋の夜の月
をのづから秋はきにけり山里の葛はひかかるまきのふせやに
白露にたえず秋萩おれふしてしば刈る小野のみちだにもなし
またもこむ秋とちぎればあまのがはわれ七夕に劣らざりけり
もみぢ見し折ならねども大井がは秋のけしきの浅からぬかな
ひたはへてもるしめなはのたわむまで秋風ぞふく小山田の稲
金葉集・秋・小倉百人一首
夕されば門田の稲葉をとづれて蘆のまろやに秋風ぞふく
霧はるるかど田の上のいなかたのあらはれわたる秋の夕ぐれ
さを鹿の聲のさやけみ聞ゆるはひとりやぬらむ小野の草臥
いづれをか思ひますらむ七夕はあふ嬉しさとあはぬつらさと
つくづくと思ひいるさの山のはにいづるは秋の夕づくよかな
金葉集・秋
こよひわが桂の里の月を見て思ひのこせることのなきかな
さすらふる身はなにぞよと秋深み生駒のやまの月しみつれば