和歌と俳句

秋の風

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秋の風富士の全貌宙にあり 蛇笏

秋風が吹き分く老の髪密に 鷹女

息ぎれのしづまるまでや秋の風 万太郎

秋風や花鳥諷詠人老いず 万太郎

秋風や誰にともなき祷りのみ 汀女

秋風や火種つまんで箸焦す 不死男

あきかぜにくゎとみひらけり心の眼 万太郎

海蟹の市に船寄る秋の風 秋櫻子

木曾の雲飛騨へ嶺越す秋の風 秋櫻子

とどまるも行くも秋風昼休 汀女

秋風や門前にある大欅 立子

塩効いて秋風冷す握り飯 不死男

人ごとに思へぬ話秋の風 立子

火山灰つむじ先だつ下山秋の風 爽雨

寝ころびし爪先にはね秋の風 爽雨

えつ見ねば秋風ばかり筑後川 楸邨

秋風はわが髪を吹き心吹き 立子

膝の間に秋風冷ゆれ車椅子 波郷

秋風に桑の梢もしたがへり 静塔

摩崖佛彫る秋風の昔かな 静塔

秋風や岩に置くべき聖歌集 静塔

秋風やサン・ドニの手に己が首 青畝

長考をロダンは彫りぬ秋の風 不死男

秋晴に在り神山の自然体 静塔

ふところに何を入れても秋の風 双魚

蒼石の耳秋風にかなひけり 双魚

秋風の甚平ふかく紐を結ふ 爽雨

秋晴の三千世界柩車閉づ 静塔

秋風を廻して廃れ糸車 不死男

人体を乗せむとすなり秋の風 耕衣

火なき爐の灰に秋風と書きて消す 林火