和歌と俳句

久保田万太郎

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火を入れて籠提灯は秋のもの

かまぼこをまたくさらせし残暑かな

秋涼しさもなき草の花をつけ

芙蓉白しつひにやまひにうち勝てる

一生の運これよりぞ芙蓉咲く

あさがほの濃きいろがちや簾越し

あさがほや悔いておよばぬことばかり

あさがほのあふるるばかり咲けるかな

あさがほやまづあさあさの日のひかり

あさがほの咲きあふれたるうき世かな

しらしらとあけてくる夜や秋出水

ながれゆくものゝ迅さや秋出水

またしてもふりくる雨や秋出水

また道ののなかとなりしかな

むだにまた一日すぎし芒かな

月うかびむなしく暮れてしまひし日

名月や伝法院の池のぬし

名月やあけはなちたる大障子

深川は水場の秋の彼岸かな

秋海棠きらめく露をよそにかな

あきかぜにくゎとみひらけり心の眼

枝折戸にきえし日ざしや秋の暮

灯のともるまでのくらさや秋の暮

十三夜孤りの月の澄みにけり

たんざくのかくまで白き夜寒かな

日曜の人出となりし紅葉かな

枝々を透きて日の照る紅葉かな

秋の蝉まだ白がすり著たりけり