和歌と俳句

久保田万太郎

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七夕の萱野の雨となりにけり

なが茄子の味も七夕ちかきかな

迎火やこのごろ越して来た隣

来る桔梗ゆめみるごとく咲き

盆来るこの二三日の萩の伸び

かまくらに秋のせみはや鳴けるかな

身から出た錆もちあぐむ残暑かな

はつあらし佐渡より味噌のとゞきけり

月今宵いさゝか風のつよきかな

道づれの一人はぐれしとんぼかな

秋天のもと朝汐の眉の濃き

秋風やころばぬさきの杖を突き

あきかぜや芝居の手締は一度ぎり

秋風や鎌倉かけて逗子に用

秋風や海のホテルで町の中

提灯のあかるすぎるや秋まつり

来年の今日をおもへと白き

まだつゞく出水のはなし十三夜

おちあひし風邪聲同士十三夜

朝寒や人のなさけのおのづから

けふといふ日に果ありし夜寒かな

たる源の桶のかろさに秋立てり

ほゝづきのあからめるさへ新盆

いつ消えし月のひかりや高燈籠

つりそめてことし三年の切子かな

風のなき夜をみまもれる切子かな

かなかなやあかつき闇のいやふかく

かなかなやあけのこる灯の二つ三つ

蜩や雲にのこりし夜のなごり