流れ星悲しと言ひし女かな
掃き送る桐の一葉を先き立てて
身に入みて身の上話花火の夜
怪談はゆうべでしまひ秋の立つ
隣る家の七夕紙は白ばかり
隣り親し七夕竹を立てしより
紙伸ばし水引なほしお中元
中元の熨斗水引にこだはりて
秋暑しニ三度部屋をめぐり坐す
秋暑し主もうけの拭き掃除
稲妻の包みて小さき伏屋かな
膝に来て消ゆる稲妻薄きかな
沓脱のあちこちにある鳳仙花
干浴衣直ぐ乾きけり鳳仙花
朝顔をあはれと見つつ障子しめ
内湖の細江になりて蓼の花
湖もこの辺にして雁渡る
豆の蔓月にさ迷ふ如くなり
何事も野分一過の心かな
萩の戸に寄り添ひ立てば昔めき
秋草をただ挿し賤しからざりし
稲稔り蜻蛉つるみ子を背負ひ
戸隠の山々沈み月高し
山霧の襲ひ来神楽今祝詞
故国荒る書斎に庭の蘭を剪り
膝立てて月を友とすひとりかな
月の下生なきものの如く行く
小諸去る月に名残を惜みつつ
新米や百万石を一握り
湯殿ほとともりて月の伏家かな
筆硯の用意無月の集ひかな
心閑子規の忌日を迎へたる
子規祭る供華に浅間の竜胆を
せせりゐる紫苑の蝶の一つ舞ひ
萩の戸に寄り添ひ立てば昔めき
案山子我に向ひて問答す
ここもとで引けばかしこで鳴子かな
人々に更に紫苑に名残あり
鬼灯の赤らみもして主ぶり
走り来る秋水そこに沢の家
去らんとすされど秋晴浅間山
秋晴の名残の小諸杖ついて
濁りしと思へど高し秋の空
七十四その秋の暮さびしけれ
雨の日はことにさびしや秋の暮
爛々と昼の星見え菌生え
客も亦帚とりつつ菊の庭
大原は近し濃紅葉牛車
この寺は尼門跡や紅葉濃し
もののふの八十宇治川の秋の水
胡桃割り呉るる女に幸あれと