和歌と俳句

松尾芭蕉

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

十とせ却て江戸を指故郷

しぐれ富士をみぬ日ぞ面白き

雲霧の暫時百景をつくしけり

猿を聞人捨子に秋の風いかに

道のべの木槿は馬にくはれけり

馬に寐て残夢遠し茶のけぶり

みそか月なし千とせの杉を抱あらし

洗ふ女西行ならば哥よまむ

蘭の香やてふの翅にたき物す

蔦植て竹四五本のあらし哉

手にとらば消んなみだぞあつき秋の霜

わた弓や琵琶になぐさむ竹のおく

朝顔幾死かへる法の松

打て我にきかせよや坊が妻

とくとく心みに浮世すすがばや

御廟年経て忍は何をしのぶ草

冬しらぬ宿やもみする音あられ

木の葉散桜は軽し檜き笠

義朝の心に似たり秋の風

秋風や藪も畠も不破の関

苔埋む蔦のうつつの念仏哉

しにもせぬ旅寝の果よ秋の暮

白菊よ白菊よ耻長髪よ長髪よ

ひれふりてめじかもよるや男鹿嶋

雲折をり人をやすむる月見