こもり波 あをきあうへに うたかたの 消えがてにして 行くはさびしゑ
ふかぶかと 靑ぎるみづに いつしかも 雨の降り居るは あはれなるかも
鶺鴒の あそべる見れば 岩淵に ほしいままにして 隠ろふもあり
靑淵に 蛙ひとつが いづこゆか ぽたりと落ちて しづごころなし
頬白は 淵のそがひの 春の樹の 秀にうち羽ぶり 啼きたるらしも
靑淵に 石おち入りし ときのまの とどろく水を なぐさみがたし
やまこえし 細谷川に 棲むといふ 魚を食ふらむ 旅のやどりに
ふかやまの はざまの陰に おちたまり 栗のいがこそ あはれなりけれ
栗のいが 谷まのそこに おち居れば 夏さりくれど しめりぬるかも
慈悲心鳥 ひとつ啼くゆゑ 起きいでて あはれとぞおもふ その啼くこゑを
木曾山に 夜は更けつつ 湯を浴むと 木の香身に沁む 湯あみ処に居し
さ夜ふけて 慈悲心鳥の こゑ聞けば 光にむかふ こゑならなくに
啼くこゑは みじかけれども ひとむきに 迫るがごとし 十一鳥のこゑ
ぬばたまの 夜の山より ひびきくる 慈悲心鳥を めざめて聞かな
まぢかくの 山より一夜 きこえ来し 慈悲心鳥は 山うつりせず
ほがらかに こゑは啼かねど 十一鳥の おもひつめたる こゑのかなしさ
木曾やまの 春くれゆきし 木末には 闇に恋しき 鳥鳴きにけり
おきなぐさ 小き見れば 木曾山に 染み入るひかり 寒しとおもふ
白頭翁 ここにひともと あな哀し 蕾ぞ見ゆる 山のべにして
石楠は 木曾奥谷に にほへども そのくれなゐを 人見つらむか
さるをがせ 長きを見れば 五百重なす 山の峠も 越えにけらしも
ひかり染む やまふかくして 咲きにけり 石楠の花 いはかがみのはな