空海の まだ若かりし 像を見て われ去りかねき 今のうつつに
金堂に しまし吾等は 居りにけり 山にとどろく 雷聞きながら
うごきゐし 夜のしら雲の 無くなりて 高野の山に 月照りわたる
まゐり来て 高野の山の くらやみに 仏法僧といふ鳥を聞く
はるけくも 黒ずむ山の 起伏の つひのはたてに 淡路島みゆ
はるばると のぼり来りし 五人は 雲より鳴れる 雷を聞き居り
ひさかたの 雲にとどろきし 雨はれて 靑くおきふす 紀伊のくに見ゆ
父こふる 石堂丸の あはれさも 月あかき山ゆ きつつおもふ
いにしへに ありし聖は 青山を 越ゆく弥陀に すがりましけり
みなみより 音たてて来し 疾きあめ 大門外の 砂をながせり
たかのやま 奥のながれに 掛かりをる 無明の橋も 吾等わたりつ
のぼりつめ 来つる高野の 山のへに 護摩の火むらの 音ひびきけり
くにぐにの 城にこもりし 現身も 高野の山に 墓をならぶる
紀伊のくに 高野の山に 一日ゐて 封建の代の 墓どころ見よ
いく山ごえ 佛の山に 砂あさき みづの流は 心しづけし
日一日 みだりたりける 雲たえて 月あかあかと 山をてらしぬ
時のまと おもほゆるまに 南より 大き雲こそ 湧きいでにけれ
おしなべて ものの常なき 高山の 杉の木立に 雲かかりけり
年ふりし いまの現に たかのやま 魚焼く香こそ ものさびしけれ
ひる未き 高野のやまに 女子と 麥酒を飲み ねむけもよほす
紀伊のくに 高野の山の 雨はれて 嘴太の鴉 めのまへをゆく