和歌と俳句

虫の音のひりりと触れし髪膚かな 茅舎

泣く虫の名など訊ねて寝入りけり 月二郎

うれしくて何か悲しや虫しぐれ 立子

天なるや童女の声の蟲の声 耕衣

明かき野や蟲聴く人を失へる 耕衣

山童に秋の風吹く萱の蟲 蛇笏

宵の虫医の帰られし後に聴く 石鼎

虫鳴けば横顔征きし弟を 鷹女

虫鳴けりそこらの畳なほあつき 楸邨

瑠璃光仏閻浮の闇は虫しぐれ 楸邨

虫鳴けり天仰ぐことおもひ出づ 楸邨

蟲ひとつなきおとろふるこゑちぎれ 蛇笏

虫鳴く音妻子の寝顔孤り独り 不死男

虫幽かなればおのづと人語澄む 亞浪

虫の声かさなり四方の野より来る 多佳子

蟲鳴けば兄の墓動くかと思ふ 鷹女

おもひ崩れゆきつつ耳に蟲鳴けり 鷹女

鉄路よりしづけきものなし虫がなき 誓子

赤土の崖にこぼれず虫はなきしきる 誓子

尿すや鏘々と虫の音を隔つ 友二

汗し覚め胸に波せりとほき虫 友二

軍歌過ぎ虫の音垣によみがへる 友二

虫の音の身に近ければいとほしみ 茅舎

兄妹の小干す衣や虫の宿 波郷

森暗く入るべくもなし虫時雨 花蓑

本読めば本の中より蟲の声 風生

よべ一夜鳴きゐし蟲や翅青く 汀女

倒れ木の下の蟲の音一列に 草田男

鳴く蟲や妻子と棲まば獄如何に 不死男

歌膝を組み直しけり蟲の宿 虚子

虫の夜のおのれ古りたる影を膝 素逝

虫鳴くやしとゞに濡れし草に月 占魚

ふるさとの虫の音高き夜を寝ぬる 信子