山墓の濡るむらさめにしどみ咲く
龍舌蘭夜は闌春の星下る
山櫻嶺々の青草香をはなつ
白木瓜に翳料峭と推古佛
瀧おもて雲おし移る立夏かな
田水みち日いづる露に蛇いちご
アカシヤの耕馬にちりて薄暑かな
山墓に薄暑の花の鬱金かな
キャベツとる娘が帯の手の臙脂色
枝蛙風にもなきて茱萸の花
緑金の蟲芍薬のただなかに
桑の實に顔染む女童にくからず
嶽腹を雲うつりゐる清水かな
つばめ野には下りず咲き伸す立葵
しげくして雲たちこむる梅雨の音
梅雨はれの風気短かに罌粟泣きぬ
月光のしたたりかかる鵜籠かな
篝火に雨はしる鵜の出そろへり
泊つる夜は鵜舟のみよし影澄みぬ
鵜かがりのおとろへてひくけむりかな
画廊出て夾竹桃に磁榻ぬる
明け易き波閧ノ船の假泊かな
樹の栗鼠に蔓の鴉は通草啄む
山童に秋の風吹く萱の蟲
蘆の花水ひかり虹を幽かにす
秋さむや瑠璃あせがたき高嶺草
白猫の見れども高き帰燕かな
秋燕に日々高嶺雲うすれけり
秋暑く曇る玉蜀黍毛を垂れぬ
鬼灯に岸草の刃もやや焦げぬ
こころもち寒卵とておもかりき
一蓮寺水べの神楽小夜更けぬ
煖爐もえ蘇鐡のあをき卓に倦む
冬山に数珠うる尼が栖かな
冬耕の婦がくづをれてだく兒かな
嶺々そびえ瀬音しづみて冬田打
新墾野照る日あまねく冬耕す
月いでて冬耕の火を幽かにす
うそぶきて思春の乙女毛絲編む
曳きいでし貧馬の髭に雪かかる
冬鵙のゆるやかに尾をふれるのみ
茶の木咲きいしぶみ古ぶ寒露かな
金剛纂さき女医につめたきこころあり
波奏で神護りもす冬いちご
大熊座地は丑満の寒さかな
灯をかかげ寒機月になほ織りぬ
八つ手凍て寝起きの魔風幽らかりき
枯山に奥嶺は藍く鳶浮けり
冬薔薇の咲きたはむるる一と枝かな
日たかくて鷺とぶ蓮田氷りけり