和歌と俳句

高野素十

菊の香や灯もるる観世音

くらがりに供養の菊を売りにけり

仁王尊供養の菊の挿されたり

花かげに花かげに蕾露の菊

門入れば竃火見えぬ秋の暮

秋天や白根のけむり雲となり

秋雨やほかほか出来し御仏飯

鳥海の二重の裾や秋の天

秋水に蝶の如くに花藻かな

秋の炉に裸の父と裸の子

迎火を女ばかりに焚きにけり

二家族うち連れ戻る墓参かな

香煙や無縁仏に濛々と

盆の月穏かに照る田の面かな

ふるさとの大もちの木の盆の月

家持にゆかりの温泉薄月夜

揚舟に高張立てし踊りかな

門川をやがてぞ去りぬ霊送

精霊舟つゞき流れてまはるあり

庭石に線香花火のよべの屑

蓼の花豊の落穂のかかりたる

盆礼やひろびろとして稲の花

悲しけれ盆寺の前に子を叱る