和歌と俳句

種田山頭火

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なむからたんのうお仏飯のゆげも

ひとりぐらしも大根きりぼしにすることも

おもむろに雑魚など焼いてまだ寒いゆふべは

窓ちかくきてさえずるや御飯にしよう

焼いては食べる雑魚もゆたかなゆふ御飯

蕗のとうが、その句が出来てたよりを書く

蕗のとう、あれから一年たちました

空があたゝかないろの水をわたる

住みなれて藪椿なんぼでも咲き

歩けなくなつた心臓の弱さをひなたに

蕗のとうのみどりもそへてひとりの食卓

ほろにがさもふるさとでふきのとう

藁塚のかげからもやつと蕗のとう

山から水が春の音たてて流れだしてきた

雑草あるがまま芽ぶきはじめた

大石小石ごろごろとして

夜露もしつとりであります

春夜は汽車の遠ざかる音も

もう郵便がくるころの陽が芽ぶく木々

風がほどよく春めいた藪から藪へ

春風のローラーがいつたりきたり

伐り残されて芽ぶく木でたゝへた水へ

山火事も春らしいけむりひろがる

ぬくうてあるけば椿ぽたぽた

草へ草が、いつとなく春になつて

日の丸が大きくゆれる春寒い風

ゆらげば枝もふくらんできたやうな

春はいちはやく咲きだしてうすむらさき

トラックのがたびしも春けしきめいて

風の枯葦のおちつかうともしない

晴れて風ふく草に火をはなつ

つつましく住めば小鳥のきてあそぶ

山から水が流れてきて春の音

住みなれて家をめぐりてなづな咲く

みんないつしよに湧いてあふれる湯のあつさ

風も春めいて刑務所の壁の高さ

だまされてゆふべとなれば木魚をたたく

子がうたへば母もうたへばさくらちる

ふるさとはおもひではこぼれ菜の花も

なんと長い汽車が麦田のなかを

ぼけが咲いてふるさとのかたすみに

けふはこれだけ拓いたといふ山肌のうるほひ

水に雲が明けてくる鉄橋のかげ

門をはいれば匂ふはその沈丁花

しきりに尾をふる犬がゐてふるさと

あなたとフリイヂヤとそしてわたくしと

さえづりつつのぼりつつ雲雀の青空

朝月が、いちはやくひよ鳥が

酔へばさみしがる木の芽草の芽

たつた一本の歯がいたみます

考へることがある窓ちかくきてなくは鴉

日向おもたくうなだれて花はちる

うららかにして鏡の中の顔

雨の、風の、芽をふく枝のやすけさは

月夜の筍を掘る

やたらにしやべればシクラメンの赤いの白いの

窓から花ぐもりの煙突一本

電線に鳥がならんですつかり春

わかれたくないネオンライトの明滅で

なんとけさの鶯のへたくそうた

あるだけの酒をたべ風を聴き

悔いることばかりひよどりはないてくれても