和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

夕霧 一

山里の哀れを添ふる夕霧に立ち出でんそらもなきここちして

山がつの籬をこめて立つ霧も心空なる人はとどめず

われのみや浮き世を知れるためしにて濡れ添ふ袖の名を朽たすべき

おほかたはわが濡れ衣をきせずとも朽ちにし袖の名やは隠るる

萩原や軒端の露にそぼちつつ八重立つ霧を分けぞ行くべき

わけ行かん草葉の露をかごとにてなほ濡衣をかけんとや思ふ

たましひをつれなき袖にとどめをきてわが心から惑はるるかな

せくからに浅くぞ見えん山河の流れての名をつつみはてずば

女郎花萎るる野辺をいづくとて一夜ばかりの宿を借りけん

秋の野の草の繁みは分けしかど仮寝の枕結びやはせし

哀れをもいかに知りてか慰めん在るや恋しき無きや悲しき

何れとも分きて眺めん消えかへる露も草葉の上と見ぬ世に