和歌と俳句

夕霧 二

里遠み小野の篠原分けて来てわれもしかこそ声も惜しまね

ふぢ衣露けき秋の山人は鹿のなく音に音をぞ添へつる

見し人の影すみはてぬ池水にひとり宿守る秋の夜の月

いつとかは驚かすべきあけぬ夜の夢さめてとか言ひし一言

朝夕に泣く音を立つる小野山はたえぬ涙や音無しの滝

上りにし峰の煙に立ちまじり思はぬ方になびかずもがな

恋しさの慰めがたき形見にて涙に曇る玉の箱かな

うらみわび胸あきがたき冬の夜にまたさしまさる関の岩かど

馴るる身を恨みんよりは松島のあまの衣にたちやかへまし

松島のあまの濡衣馴れぬとて脱ぎ変へつてふ名を立ためやは

契りあれや君を心にとどめおきて哀れと思ひ恨めしと聞く

何故か世に数ならぬ身一つを憂しとも思ひ悲しとも聞く

数ならば身に知られまし世の憂さを人のためににも濡らす袖かな

人の世の憂きを哀れと見しかども身に代へんとは思はざりしを