和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

澪標

かねてより隔てぬ中とならはねど別れは惜しきものにぞありける

うちつけの別れを惜しむかごとにて思はん方に慕ひやはせぬ

いつしかも袖うちかけんをとめ子が世をへて撫でん岩のおひさき

一人して撫づるは袖のほどなきに覆ふばかりの蔭をしぞ待つ

思ふどち靡く方にはあらずとも我ぞ煙に先立ちなまし

たれにより世をうみやまに行きめぐり絶えぬ涙に憂き沈む身ぞ

海松や時ぞともなきかげにゐて何のあやめもいかにわくらん

数ならぬみ島がくれに鳴く鶴を今日もいかにと訪ふ人ぞなき

水鶏だに驚かさずばいかにして荒れたる宿に月を入れまし

おしなべてたたく水鶏に驚かばうはの空なる月もこそ入れ

住吉の松こそものは悲しけれ神代のことをかけて思へば

荒かりし浪のまよひに住吉の神をばかけて忘れやはする

みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひける縁は深しな

数ならでなにはのこともかひなきに何みをつくし思ひ初めけん

露けさの昔に似たる旅衣田蓑の島の名には隠れず

降り乱れひまなき空に亡き人の天がけるらん宿ぞ悲しき

消えがてにふるぞ悲しきかきくらしわが身それとも思ほえぬ世に