かねてより隔てぬ中とならはねど別れは惜しきものにぞありける
うちつけの別れを惜しむかごとにて思はん方に慕ひやはせぬ
いつしかも袖うちかけんをとめ子が世をへて撫でん岩のおひさき
一人して撫づるは袖のほどなきに覆ふばかりの蔭をしぞ待つ
思ふどち靡く方にはあらずとも我ぞ煙に先立ちなまし
たれにより世をうみやまに行きめぐり絶えぬ涙に憂き沈む身ぞ
海松や時ぞともなきかげにゐて何のあやめもいかにわくらん
数ならぬみ島がくれに鳴く鶴を今日もいかにと訪ふ人ぞなき
水鶏だに驚かさずばいかにして荒れたる宿に月を入れまし
おしなべてたたく水鶏に驚かばうはの空なる月もこそ入れ
住吉の松こそものは悲しけれ神代のことをかけて思へば
荒かりし浪のまよひに住吉の神をばかけて忘れやはする
みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひける縁は深しな
数ならでなにはのこともかひなきに何みをつくし思ひ初めけん
露けさの昔に似たる旅衣田蓑の島の名には隠れず
降り乱れひまなき空に亡き人の天がけるらん宿ぞ悲しき
消えがてにふるぞ悲しきかきくらしわが身それとも思ほえぬ世に