折りて見ばいとど匂ひもまさるやと少し色めけ梅の初花
よそにては椀木なりとや定むらん下に匂へる梅の初花
人は皆花に心を移すらん一人ぞ惑ふ春の夜の闇
折からや哀れも知らん梅の花ただかばかりに移りもせじ
竹河のはしうちいでし一節に深き心の底は知りきや
竹河によを更かさじと急ぎしもいかなる節を思ひおかまし
桜ゆゑ風に心の騒ぐかな思ひぐまなき花と見る見る
咲くと見てかつは散りぬる花なれば負くるを深き怨みともせず
風に散ることは世の常枝ながらうつろふ花をただにしも見じ
心ありて池の汀に落つる花泡となりてもわが方に寄れ
大空の風に散れども桜花おのがものぞと掻き集めて見る
桜花匂ひあまたに散らさじとおほふばかりの袖はありやは
つれなくて過ぐる月日を数へつつ物怨めしき春の暮かな
いでやなぞ数ならぬ身にかなはぬは人に負けじの心なりけり
わりなしや強きによらん勝ち負けを心一つにいかが任する
哀れとて手を許せかし生き死にを君に任するわが身とならば
花を見て春は暮らしつ今日よりや繁きなげきの下に惑はん
今日ぞ知る空をながむるけしきにて花に心を移しけりとも
哀れてふ常ならぬ世の一言もいかなる人に掛くるものぞは
生ける世の死には心に任せねば聞かでややまん君が一言
手にかくるものにしあらば藤の花松よりまさる色を見ましや
紫の色は通へど藤の花心にえこそ任せざりけれ
竹河のその夜のことは思ひいづや忍ぶばかりの節はなけれど
流れての頼みむなしき竹河に世はうきものと思ひ知りにき