和歌と俳句

高浜虚子

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雪の後雨となりけり寒明くる

寒明けの雪どつと来し山家かな

浅き春空のみどりもやや薄く

春めきし人の起居に冴え返る

時々はわかさぎ舟の舸子謡ふ

雪解の音をききつつ籠り居り

雪解の俄に人のゆききかな

田一枚一枚づつに残る雪

残雪の這ひをる畑のしりへかな

薪を割る人に残雪遠くあり

猫柳折られながらに呆けたる

猫柳薪の上に折られあり

黄色き日空にかかりぬ猫柳

障子越し碁の音聞え梅の花

煎豆やお手のくぼして梅の花

紙折つて雛のあられを其上に

雛あられ染める染粉は町で買ひ

色紙なる繪雛の袖のはね上り

美しきぬるき炬燵や雛の間

まろまろとふわふわとして春の山

斯く迄に囁くものか春の水

裏川に獨りを掘る女

うるほえる天神地祇や春の雨

春泥の庭を散歩の足駄かな

ものかげの黒くうるほふ春の土

耕すにつけ読むにつけ唯独り

耕しの我のみ頼む痩地かな

鍬かつぐ男女ゆき合ひ畑打

畑打つて飛鳥文化のあととかや

山畑や鍬ふり上げて打下ろす

瓶青し白玉椿挿はさむ