交はれる二木の枝の木の芽かな
金堂の扉を叩く木の芽風
陽炎の中に二間の我が庵
草餅の重の風呂敷紺木綿
縁側に盆に草餅庭に人
桃咲くや足なげ出して針仕事
祠あり一木の桃の花盛り
朧とは行きかふ人の顔白く
大学は花に埋もれ日曜日
落花地に戯れ蝶は蝶を追ひ
婦長来て瓶の櫻をなほし行き
門衛は居らざる如し櫻散る
大根の花を生けたるバケツかな
初蝶来何色と問ふ黄と答ふ
初蝶が来ぬと炬燵に首を曲げ
もつれつつ蝶どこまでも上がり行く
人と蝶美しく又はかなけれ
蝶飛びて其あとに曳く老の杖
皿洗ふ絵模様抜けて飛ぶ蝶か
円を描き弧を描く花の蝶々かな
伸ばしたる子の手届かず蝶の空
玻璃内の眼を感じつつ親雀
親雀身を細うして子雀に
四ところに連翹ありて庭広し
今年又径の角なる苗代田
小諸まだ陽気遅れて苗代寒
塗畦に尾をつけてゐる烏かな
塗畦の土を支へて茅萱かな
毎日の風も暮春の習ひなり