和歌と俳句

高浜虚子

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交はれる二木の枝の木の芽かな

金堂の扉を叩く木の芽

陽炎の中に二間の我が庵

草餅の重の風呂敷紺木綿

縁側に盆に草餅庭に人

咲くや足なげ出して針仕事

祠あり一木のの花盛り

とは行きかふ人の顔白く

大学はに埋もれ日曜日

落花地に戯れ蝶は蝶を追ひ

婦長来て瓶のをなほし行き

門衛は居らざる如し散る

大根の花を生けたるバケツかな

初蝶来何色と問ふ黄と答ふ

初蝶が来ぬと炬燵に首を曲げ

もつれつつ蝶どこまでも上がり行く

人と蝶美しく又はかなけれ

飛びて其あとに曳く老の杖

皿洗ふ絵模様抜けて飛ぶ

円を描き弧を描く花の蝶々かな

伸ばしたる子の手届かずの空

玻璃内の眼を感じつつ親雀

親雀身を細うして子雀

四ところに連翹ありて庭広し

今年又径の角なる苗代田

小諸まだ陽気遅れて苗代寒

塗畦に尾をつけてゐる烏かな

塗畦の土を支へて茅萱かな

毎日の風も暮春の習ひなり