屋上に草も木もなし病者と蝶
遠く来てハンカチ大の芝火つくる
電柱が今建ち春の雲集ふ
春泥に影濡れ濡れて深夜の木
仰ぎ飲むラムネが天露さくら散る
頭悪き日やげんげ田に牛暴れ
新樹に鴉手術室より血が流れ
首太くなりし夜明の栗の花
犬も唸る新樹みなぎる闇の夜は
塔に眼を定めて黒き焼野ゆく
胸いづる口笛牛の流し目に
黄麦や悪夢背骨にとどこほり
手を碗に孤児が水飲む新樹の下
身に貯へん全山の蝉の声
西日中肩で押す貨車動き出す
濁流や重き手を上げ藪蚊打つ
鉄棒に逆立つ裸雲走り
夕焼けの牛の全身息はづむ
爪立ちに雄鶏叫ぶひでり雲
大旱の田に百姓の青不動
炎天の坂や怒を力とし
翼あるもの先んじて誘蛾燈
きりぎりす夜中の崖のさむけ立つ
わが家の蠅野に出でゆけり朝のパン
松の花粉吸ひて先生胡桃割る