和歌と俳句

西東三鬼

屋上に草も木もなし病者と蝶

遠く来てハンカチ大の芝火つくる

電柱が今建ち春の雲集ふ

春泥に影濡れ濡れて深夜の木

仰ぎ飲むラムネが天露さくら散る

頭悪き日やげんげ田に牛暴れ

新樹に鴉手術室より血が流れ

首太くなりし夜明の栗の花

犬も唸る新樹みなぎる闇の夜は

塔に眼を定めて黒き焼野ゆく

胸いづる口笛牛の流し目に

黄麦や悪夢背骨にとどこほり

手を碗に孤児が水飲む新樹の下

身に貯へん全山の蝉の声

西日中肩で押す貨車動き出す

濁流や重き手を上げ藪蚊打つ

鉄棒に逆立つ裸雲走り

夕焼けの牛の全身息はづむ

爪立ちに雄鶏叫ぶひでり雲

大旱の田に百姓の青不動

炎天の坂や怒を力とし

翼あるもの先んじて誘蛾燈

きりぎりす夜中の崖のさむけ立つ

わが家の蠅野に出でゆけり朝のパン

松の花粉吸ひて先生胡桃割る