和歌と俳句

西東三鬼

鉄塊の疲れを白き蚊帳つつむ

山削る裸の唄に雷加はる

唄一節晩夏の蠅を家族とし

青葡萄つまむわが指と死者の指

眠おそろし急調の虫の唄

海坂に日照るやここに孤絶の

仕事重し高木々々と百舌鳥移り

雲厚し自信を持ちて案山子立つ

抱き寝る外の土中に太る

饅頭を夜霧が濡らす夜の通夜

坂上の芋屋を過ぎて脱落す

枯野壁なす前に歯をうがつ

死後も貧し人なき通夜のとがる

孤児孤老手を打ち遊ぶ柿の種

冬の山虹に踏まれて彫深し

電柱も枯木の仲間低日射す

滅びざる土やぎらりと柿の種

寒き田へ馳くる地響牛と農夫

真夜中の枯野つらぬく貨車一本

冬かぶさる家に目覚時計狂ひ鳴る

屋上に双手はばたき医師寒し

書を読まず搗き立ての家にあれば

冬雲と電柱の他なきも罰

寒明けの街や雄牛が声押し出す