枯草に坐し子を捧ぐ母の笑
終電に間ある雑鬧三の酉
憑かれてぞ過ぎいつしか枯木道
菊挿しつ恋に溺るゝ恥やある
大わらわ散りて銀杏や耿と敷く
星寒し人の言尻胸に尾を
花八つ手縁談窶れ誰が子ゆゑ
遠ざかる背のいつしんに枯野かな
支那蕎麦の手招く灯あり霜の辻
執念のがつきと崖に蔦かつら
塀越にかつ散る紅葉暖く
夜はとくと厨より吹く風に冬
霜の駅よくぞ還りし無疵の手
言のみの威猛泡なす河豚鍋
残菊や彼此なく向ひ立つこゝろ
巨星隕ちぬ凩しんと身に透る
下駄の音脳に響きつ夜寒けれ
冬構庭木や篤し人よりも
鴨の水かしこき苑の松の影
霜夜寝て四方走り居る汽車のこと
恋に怯づは才なきあらず隙間風
坐し居れば外より我家の昼の冷え
うは目見る戸越の空の落葉雨
会堂に日晴れて寒し国民葬
英霊を祀る日に逢ふ落葉かな
冬座敷寡言は性とあらねども
箸挟む鱈子に纏ふ恥いかに
覚めをれば寒さのはてにきしむ家
地震長ししらず身構ふ毛布撥ね
凩や居退りて遠き人の上
襟巻深く汝の眼瞑みたり
顔寒し有為曇るときくにさへ
茶を淹れてさみしや須臾に冷ゆる夜は
短日や念駈くことのみ多くなりぬ
菩薩顔おでんをすゝむ誕生日
埋火や畢竟朝の乱れ髪
練炭炉骨めける指寄り翳す
思ひきや潮路展けて崖の石蕗
冬の蠅具足の翅をひるがへし
隙間風負ふべくあらぬ身の負ひ目
無人の家夜更けて戻る寒風裡
壁寒し自恃のはかなさ念ひ寝る
深夜の駅とんびの袖を振り訣れ
温室咲を卓上に人の世に貧富
ちゝはゝを目に思ふ雪は胸に降り
木枯れたり深夜下駄曳く街はづれ
線路工夫の唄か嘆きか雪もよひ
外套千々揉む夜の駅の朱の欅