諸歯落つ夢あはれ湯婆蹴りたるか
恋愛の漠たる探り炭火掻く
ひとり寝て眼に寒月を掲げたり
月寒し戦装の兵等との別れ
足袋外套脱ぎ散らさでや孤独慣れ
寒木瓜の赤さ褒貶定まらぬ
愛怨を襲ぎ来し瞼寒燈下
酷寒の街底月に送られ来
人気なく火気なき家や俄破と出づ
隙間風逃ぐる術なき夜々の肩
二重廻し着て蕎麦啜る己が家
まことの死かなたにし夜々冴えかへる
寒菊や一代限の女の日
一疋の雄の夜明けぬ夕薔薇
裔いまだ体中の微塵枯木星
肩かけの臙脂の滑り触れしめよ
言いはず触れず女の被布の前
別れ路や虚実かたみに冬帽子
哀しき眸わづか初冬の灯に笑めり
送る身に露霜ひしと汽車発つ間
凍る夜や人のさびしさ眉間に来
手袋や母情華やぐ席隣る
口紅の無きがの口に林檎噛む
身慄へて金色の羽を銀杏脱ぐ
鴨の水舟遣る人に活計の和
寝巻換ふに口衝き出づる寒さかな
国愛しむまことに松の冬日かな
冬椿竹叢着負ふ水の上
吊し柿わがいくこゑの梨礫
息白くよべ残したる仕事継ぐ
霜の朝留飲吐くや胸迫る
日曇りてしばし寒さの寄すばかり
巨き歯に追はるゝごとし十二月
束ね髪火おこす項見悚める
たゞ寒く芯の濁りにいねまらず
歳末の眉宇三等局に人の列
冬帽の衢縫ひ行くあてしらず
目の中に枯藻漂ひ日のほてり
頬を削る風と思ひにき霜や濃き
落葉焚き蔭の寸土を温むる
寄附掻きの我が家洩らさぬ年の暮
べつたらを食すとし云はば羨しからむ
大阪の大年いかにわれら健