和歌と俳句

片山桃史

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回転扉銀行紙幣を量りこぼす

眉繊き師走の女送金す

師走わがポケットに小銭鳴る

落葉ふり人も子犬も陽に甘ゆ

夕ぐれはひとの背かくもひしめきて

いんいんと耳鳴りわれに時亡ぶ

部屋くらく坐りぬ立ちぬ北風すさぶ

よりどころなき眸に夕べふれり

ふれり酔ひては人らみなやさし

ふと眩しく酔のさみしさきはまりぬ

紫雲英野をまぶしみ神を疑はず

ひかる風ふき神は寝たまへり

蛇苺地に熟れ人の眼はにごる

どくだみの香に悪魔醒め蝶羽うつ

どくだみの悪魔の会話虻とべり

シュミイズにかくれぬ肌朝すゞし

血管のみどりの肌朝すゞし

朝すゞし肌につよき化粧水

街劫暑夢をもちえぬ人歩めり

肩萎えてをんながとほる雨がふる

雨がふる恋をうちあけようと思ふ

想出の中にも白き雲とべり

白雲にさゝやかな希ひもちて久し

白雲のもとに翔び得ぬものは蛇

鵙鳴けり日は昏るるよりほかなきか

白雲よ女は祷るときかなし

三日月がひかれば女うそをつく

母と子に夕餉の豆腐秋ふかし

雨の夜の豆腐話もなく母子

食卓に黄菊皇礼ひゞけり

街清し皇礼砲を街に聴く

階上にピアノ髭剃り麺麭を焼く

朝の水胃に墜ち煙草肺ふかく

雨はよしフヰルムのひかり眼にのこり

雨はよし想出の女みな横顔

想出の顔ほゝ笑まず雨ふれり

雨もよし墨すれば秋深き夜

雨の夜の遠き音読秋深し

灯眩し肉搏つおとのにぶきおと

つゞけざま肉搏つひゞき低くかりき

ぶつ倒れし腹ひくひくと起たむとす

咲けり憂愁ふかく身に棲める

咲けり身に棲む紙魚が書にこぼれ

身のまはり青き湿度の手紙書く

青の朝暴風身ぬちにも吹けり

腐朽船鴎鳴かぬはもどかしき

夕鴎我が吐く煙河を這ふ

夕汐に錆びた錨となるこゝろ

夕焼けてマストの十字架ひとおりる

陸戦隊白し疾風雨をくゞる

街に見て陸戦隊は靴固き

陸戦隊白しカッタア艦へ帰る