和歌と俳句

片山桃史

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千人針はづして母よ湯が熱き

今宵除夜睡き耳藉しつゝねむる

元日の雪に乾パンを頒けこぼす

赤き日を追ひつめ高き弾流る

ひと飢ゑて赭き野に掘る壕ふかし

胸射貫かれ夏山にひと生きむとす

爽涼と飢ゑぬ砲兵砲射ちぬ

汗馬降り音信絶えし我が靴音

死の夏天驢馬に愚かな縞ありぬ

黄河の日爛れ蠍はほの青き

かくのみのいのち汗ふき飯を食ふ

いつしんに飯くふ飯をくふはさびし

黄天にキリストのごと落伍せり

旗をふり旗をふり城壁より墜ちし

背嚢と米とおちゐき何もなし

鉄兜射ぬかれありき忘れ得ず

胃を照らす月光囲りには寝息

飢ゑ極み月光深き谿に射す

すべもなき三日月飢ゑし馬怒る

銃磨き寝し月に起され並ぶ

秋光の哀韻訝しめばめしひ

難民の駱駝秋風より高し

天上に颶風童女を載せ駱駝

地の涯の秋風に寡婦よろけ立つ

叱られて叱られてありたりし神よ

花の上に神々を見失ふ勿れ

ひと死にて慰問袋の独楽まひ澄む

ひと死にて色盲の子の図画とどく

ぢりぢりと荒魂這ふ青の夏

ひと叫び天は木の葉をふらせける

弾とばぬ日は借金が燦とある

頑なに言ひ争へば寒月

気軽に死に一箱の煙草匿しゐき

気軽に死に背嚢を重く遺せし

河暴れ月痛々と地の魚に

河暴れ昏睡の地にくわつと雨

暴河かの一点の灯に棲む人は

河暴れ彼此の想念蛍とぶ

昼の月暴河の民に怒なし

夕鴉暴河の民は銃を棄てし

からからとひとわらふ日はくまなくて

ひとわらふ金歯ひかるはさびしきかな

飢かくし笑ひこけ眼鏡とりし顔

葬り火か飯を焚かむと来て礼す

徒歩傷者列なさず影法師凹凸

武装して待機せり担架隊横切る

弾ひとつ壁刺ししのみ長閑なる

なにもない枯原にいくつかの眼玉