野火消えて夕べたかぶる東風の湖
あはれ没日ふた国かけて山焼けり
葛飾にわが啓蟄の旅了る
吉野路の雲居きびしき田を打てり
著莪の花白きにわきて雲絶えず
近江より雲来て蕗に降らす雨
我が額にこの降る雨は著莪の雨
ああ蜩わが念ふときこゑおこる
霜いたし鉄板の音身にひびき
繭を撰り少女の日日のかくて去る
格納庫露ふかき野に口ひらく
重戦車ひびき穂草の露微塵
虫しぐれひと戦をならふ野に
船の灯を追ひくる虫ぞ波に落つ
武蔵野はもの枯れ冬に入るひかり
末枯の野をわたりゆく日の遠さ
霜いたり笹鳴は野に来てをりぬ
落葉ふり火炎のごとし樹の没日
白鷺は林枯れそめその白さ
時雨れつつ林の奥は日がさしぬ
この時雨かつて独歩の書に読みき
武蔵野の林の朝は鶲より
枯るるもの枯れゆき林しづかなり
虫絶えて虚しき天が目のかぎり