和歌と俳句

加藤楸邨

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雪嶺の天に触れたる雪明り

幾谿の雪明りのみ見つつ来ぬ

雪の谿しづかなるかな水湧ける

空谿の深雪のどこか月ありぬ

寒水の鮠はしづかに旋りゐる

のこゑ冬田に失せて沼におこる

鳰ひとつ消えて冬田の夜が来たる

憤りわが踏む雪に雪明り

蘭咲けり深雪の温室に来てめづる

冬の鷺つねに一羽なり凍雪に

冬の鷺かがやくとみれば影うまる

冬の鷺歩むに光したがへり

梅は見き蘆の芽ぐむは見ず往なむ

木木の芽は天暗くして光りいづ

猫柳呆けて天の青き見ず

菜が咲いて鳰も去りにき我も去る

雉子鳴けりほとほと疲れ飯食ふに

雉子の声憤るごとしをのれ鳴き

あした鳴き夕べ雉子鳴き住みつかぬ

屋上に見し朝焼のながからず

青あらし甍のひまに湧きあふる

身のほとり木の芽の光ふるごとし

若芝にノートを置けばひるがへる

梅雨の雷黴くさき廊うちひびき

測量図見むと面よせぬ梅雨暗し

舟の波真菰を越えて田にはしる