雪嶺の天に触れたる雪明り
幾谿の雪明りのみ見つつ来ぬ
雪の谿しづかなるかな水湧ける
空谿の深雪のどこか月ありぬ
寒水の鮠はしづかに旋りゐる
鳰のこゑ冬田に失せて沼におこる
鳰ひとつ消えて冬田の夜が来たる
憤りわが踏む雪に雪明り
蘭咲けり深雪の温室に来てめづる
冬の鷺つねに一羽なり凍雪に
冬の鷺かがやくとみれば影うまる
冬の鷺歩むに光したがへり
梅は見き蘆の芽ぐむは見ず往なむ
木木の芽は天暗くして光りいづ
猫柳呆けて天の青き見ず
菜が咲いて鳰も去りにき我も去る
雉子鳴けりほとほと疲れ飯食ふに
雉子の声憤るごとしをのれ鳴き
あした鳴き夕べ雉子鳴き住みつかぬ
屋上に見し朝焼のながからず
青あらし甍のひまに湧きあふる
身のほとり木の芽の光ふるごとし
若芝にノートを置けばひるがへる
梅雨の雷黴くさき廊うちひびき
測量図見むと面よせぬ梅雨暗し
舟の波真菰を越えて田にはしる