和歌と俳句

高浜虚子

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大空をただ見てをりぬ檻の鷲

落葉焚く過ぎゆく時雨見送りつ

時雨るると茶屋から茶屋へ小走りに

東西の両本願寺御講凪

短日の駒形橋を今渡る

傾きし大冬木ある社殿かな

老夫婦いたはり合ひて根深汁

焚火せる患家の門を這入りけり

焚火のみして朽ち果つる徒に非ず

焚火して雪空仰ぎゐたりけり

拂ひ立つ焚火埃や雪催ひ

釜すこし上げて囲炉裏を焚きくれし

トラムプの崩れちらばる置炬燵

助炭かけてし漸く立ちし水仕かな

勉めよと日記を買ひて與へけり

大根の葉しごきながらに畑を出づ

高きより落葉光を失しつつ

水鳥を提灯照らし過ぎにけり

水鳥の夜半の羽音静まりぬ

灯火の窓辺に倚りぬ浮寝鳥

日向ぼこりして焦燥を免れず

観音は近づきやすし除夜詣

提灯の碇の紋や除夜詣

寒紅の店の内儀の美しき

雪片の流れ止まる玻璃戸かな

避寒宿荷物と書生先づ至る

かわかわと大きくゆるく寒鴉