和歌と俳句

高浜虚子

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茶の花嵯峨の細道斯く行きぬ

山裾のほかりとぬくしお茶の花

大原の子は遊びをる時雨かな

門さしに走り出づるや小夜時雨

物指で背なかかくことも日短か

来るとはや帰り支度や日短か

枯蓮の間よりのつづき立つ

息白く喧嘩してをる夫婦かな

白雲と冬木と終にかかはらず

雑炊に非力ながらも笑ひけり

爐話に煮こぼれてゐる蕪汁

焼芋がこぼれて田舎源氏かな

手より手に渡りて屏風運ばるる

玉の緒をつなぐたんぽをかへにけり

つづけさまに嚏して威厳くづれけり

嚏してまた襟巻を深々と

襟巻の狐の顔は別に在り

霜解の道返さんと顧し

炎上を見かへりながら逃ぐるかな

来る人に我は行く人慈善鍋

煤竹を持つて喧嘩を見に出たり

老一人いつまで煤の始末かな

堀端の柳のもとに畳替

悴める手を暖き手の包む

駆け込みし女房の髪にかな

見えてゐる御門遠しや御所の

凍蝶の己が魂追うて飛ぶ