和歌と俳句

高浜虚子

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呉服屋が来てをる縁や干大根

風の日の莖漬けてゐる女かな

茎の水こぼれ流るる納屋の外

鷹の目の佇む人に向はざる

落葉焚く煙を乱すものもなし

たらたらと藤の落葉の続くなり

時雨つつ大原女言葉多きかな

爐辺の人一人出て行く時雨かな

女皆手拭かぶる時雨かな

寺の傘茶店にありし時雨かな

あらぬ方に冬日の影の逃げてゐし

酒うすしせめては燗を熱うせよ

弔ひのあるたび出づる冬籠

炭斗は所定めず坐右にあり

爐の灰に置きし土瓶もたぎりをり

又一人婆の出て来る爐ばたかな

侘住の炬燵布団の美しき

せはしげに叩く木魚や雪の寺

はさまりし古き落葉や小柴垣

大原も時雨れぬ日あり暖し

柴漬の古江に人の下りて行く

庭広し冬木がくれの普請かな

草枯や泣いてつき行く子ははだし

き葉の火となりて行く焚火かな

又人の住みかはるらし畳替

水仙や表紙とれたる古言海