北原白秋

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とほつあふみ 浜名の郡 日はぬくし 坊瀬越え来て ここは白須賀

おなじ冬 おなじ蔀の 日のあたり 白須賀はよし 古りし白須賀

ここ過ぎて なにか現の けほどさよ 物はたく音も 立ちて止みたる

よく響く 冬は暁 ふる雨の ただに一色の 音ぞ立ちたる

うち黄ばむ 落葉松見れば 狭霧立ち 氷雨ひびかふ 時いたりけり

山中湖 あかつき近し 落葉松や 目もさむざむと 向ふ雨霧

針樅に 氷雨うちひびき いさぎよし ことごとの雨よ すがしとを見む

暁の雨 冷えとほる玉の 野葡萄の ふたいろの玉は 瑠璃よ紫

落葉松も しみみ黄葉でぬ 木の立の まこと直なる 繊き葉の神

冬向ふ 繁み落葉松 氷雨ふり いたもにじめり 寒き落葉松

鵜の島は 紅葉しにける 岩はなに 兎出てゐて ぬくとき秋や

鵜の島と 舟子が呼ぶなる 湖の島 兎跳ねつつ 鵜の鳥はゐず

湖の島 い照る紅葉に 遊べるは 耳後へ垂れて 番ひ野兎

秋の晴 湖面にあそぶ 紋白蝶の 影ひとつ見つつ ぽんぽん舟行く

西湖の 溶岩壁を 立つ鳥の 羽ばたきを聴けば 間隔正し

み冬づく 西湖の鱸 よく冷えて 釣られたりけり 徹る気先に

西湖は しづかなる湖 瓦焼く 煙のぼりゐて 秋の色あり

尻高に 子が乗る後を その母と 馬はすすめつ よき紅葉なり

ここよりぞ 富士は裾野の 見わたしと 水照しづけき 四つの湖見ゆ

青木繁む 富士の裾原 風乱り 行きはしる雲の 絶ゆる間もなし

雪の富士 秀に現はるる 立ち待つと 将た寒けかり 繁き天雲

精進湖 雲あし赤く 日暮なり 写真とらすと 家族馬竝む

和歌と俳句