北原白秋

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この子らを 見つつ歩けば 地は灼けて いや日は暑し 影がしるしも

この子らが ボールかつとばす 音さへや ま空にひびき 痛々し我は

ほがらかに 子らはあるべし 畏無く 心揺り遊び 常すこやかに

きびしく 今は鍛へむ 事しある かかる日にこそ 光るべきなれ

馬鈴薯の うす紫の 花ゆゑに わづかに堪へて 子らは足踏む

日のもとに 父打つおのが 子らありと 悲しみてよき 空もあるらし

道は説け 言は繁くも しかれども 生の命に 触るる無くば如何に

雲しろく いゆきわたらふ 夏の空 松蝉の声ぞ ここにしづけき

誠あらば 神も哭くべし この声や しづかにはあれど 父の声なり

この子らは 共に遊ぶを 遊ぶ無し その母と母の 何憎みする

何すとか ここにわが来し この父は 子を思ふゆゑに 寄るべなく来し

手を面に 涙もろなる この爺さ 父なるならし とみに老いにけり

夏旱 子を思ふ母の 戸に立つと 寄り寄りにゐて 泣きもあへなくに

子の母ぞ 照る日明きに かくばかり 行きもまどひぬ 面ほそりして

子の母の 今のなげきは 道芝の 照る日に萎えて 地しばりの花

国の歌 君が代歌ふ しづかなる このひとときは 譬ふるものなし

よしなき言立やげに退くにさへ 何か一言は 言はねばすまず

潔き 人は退くべし 棄てざまに 吐き棄つる言は 蓋し徹らず

ひたおもて 君が直なる 言挙は 聴いさぎよし 心に徹る

涙共に 下るこの声 この子らぞ 愛しとは思へ 亦聴き難し

和歌と俳句