北原白秋

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荒地菊 花咲きほこる 道の端 子を思ふ父の 濃き影佇ちぬ

竹煮草 粉にしろくふく この日でり 堪ふべしや我も 省みなむとす

相憎む 輩がうへに 思ひいたり しみじみとあり 日の照る庭に

この原や 草深百合の 草ぶかに 匂ひこもらひ 昨はありにし

成城学園 また子ら行かず 雑草の 花咲きほこり 早や文月なり

ひと鉢の 草の花だに すゑなくに 昼冷まじく 師を儺ふとす

追ひ儺ふ 下心はさもあれや いふ言は 皆うやうやし 聞きのよろしさ

事はてむ 憤らくも 現なり 父母よ見よ こは正眼なり

母の館 窓は開けど 照る月の 来り坐らむ 椅子ひとつ無し

言挙ぐと 胸ぞ迫りて 泣きにける 父と母の声は みな誠なり

空見つつ 何の言葉ぞ 手ぶりよく 説きは巧めど 胆に響かず

上衣ぬぎ 汗みづくなれや かく歎きし かく言挙げ 君ひたすらに

いふ言は 拙けれども ひたおもて 眼は輝けり 下心哭けるなり

子の太郎 声はあげつつ 帰りたり 我が先生を 正しと言ふなり

我が太郎 まこと直なりや 幼なくも ただに師を見る 眼はまじろがず

心より その師よしとし 疑はぬ このをさなさに 父我泣かゆ

この道よ ただにとほれり こごしくも 敢てい行くに 何かはばまむ

声絶えて 道に言はずも 父母の 子を思ふ誠 ただにとほらむ

人の子は 棄てて清くば 道芝の 塵だにも如かず 風の埃に

多摩川に さらす調布 さらさらに 何ぞさらりと 棄てて去りにし

この子らぞ 父よ還れと 祈るなる 還り来ませや 何も言はずて

和歌と俳句