土肥

晶子
橋あまた置かれ湯の香をまぜて行く箱根の水の土肥郷に落ち

七夕や灯さぬ舟の見えてゆく　亜浪

山頂の草立つさまや霜の晴　かな女

下田

薊咲き下田通ひの船がゆく　亜浪

大島の波浮の船きて炭を積む　秋櫻子

修善寺

ほととぎす啼きどよもすや墳の上　虚子

萩に置く露の重さに病む身かな　漱石

頼家の墓にはやなき冬日かな

ほくほくと馬がおり来る山桜　亜浪

風に揺るるげんげの花の畦づたひ　立子

木犀や二夜泊りに雨一夜　秋櫻子

向山に朝日当れば石叩　立子

秋の蝉檜山の西日はやあかし　波郷

湯ヶ島

峡の田の畦も行くべしはこべ咲き　秋櫻子

凧の空伊豆の枯山重畳す　秋櫻子

道端の仏に木の芽花のごと　青邨

山ざくら散り来る椎の木かげかな　青邨

湯女がゆく崖に道あり山ざくら　青邨

月よりもくらきともしび花馬酔木　青邨

湯壷より高く春水踊りつつ　青邨

夜番の灯吊橋きたるゆらぎつつ　秋櫻子

伊豆の湯はうつくしかりし年忘　青邨

女達枯木の宿をまもりゐる　青邨

畦焼いて古国伊豆の松の内　秋櫻子

浄蓮の滝

滝の風山葵田の蝶みな白し　波郷

滝の巌寒禽翔けてひかりなし　秋櫻子