凡の墨すりて香もなし梅雨の入り
梅雨の月大きくあかき星連れて
神伝流夫の泳ぎは波立たず
もの言へば世に倦むばかり蚊遣香
冬至夏至けふは夏至なる月日かな
甘え猫鳴く蝉荒く喰ひたるに
松籟の蝉の澄む丘無きか行かむ
無職夫妻宵早く金魚買ひに出づ
音たてて清水あふれをり瓜をどる
忘れ得ぬ人ある倖せえごの花
どくだみと言はじ十薬は清き花
犬洗ひやりて忘暑の犬とわれ
江戸前のつひに老いまで身すずしく
みよしのの百花の中やひそと著莪
沙羅生けて平水指の朝茶かな
生涯に看とり幾たび水中花
老猫の耳透く暑さ兆しけり
はまなすや親潮と知る海のいろ
水打てけがれ入らざる門となす
失せものに心のこりて羽蟻の夜