和歌と俳句

及川 貞

  • 新年
  • 凡の墨すりて香もなし梅雨の入り

    梅雨の月大きくあかき星連れて

    神伝流夫の泳ぎは波立たず

    もの言へば世に倦むばかり蚊遣香

    冬至夏至けふは夏至なる月日かな

    甘え猫鳴く荒く喰ひたるに

    松籟の蝉の澄む丘無きか行かむ

    無職夫妻宵早く金魚買ひに出づ

    音たてて清水あふれをりをどる

    忘れ得ぬ人ある倖せえごの花

    どくだみと言はじ十薬は清き花

    犬洗ひやりて忘暑の犬とわれ

    江戸前のつひに老いまで身すずしく

    みよしのの百花の中やひそと著莪

    沙羅生けて平水指の朝茶かな

    生涯に看とり幾たび水中花

    老猫の耳透く暑さ兆しけり

    はまなすや親潮と知る海のいろ

    水打てけがれ入らざる門となす

    失せものに心のこりて羽蟻の夜