和歌と俳句

沙羅の花


比叡の嶺を雨過ぎしかばうるほヘる杉生がもとの沙羅雙樹の花


杉の樹のしみたつ比叡のたをり路に白くさきたる沙羅雙樹の花


暑き日を萱別けなづみ此叡の嶺にこしくもしるく沙羅の花見つ

晶子
沙羅双樹しろき花ちる夕風に人の子おもふ凡下のこゝろ

白秋
あはれなる 石のひとつぞ 古びたる その石の辺の 沙羅の木の立

白秋
さすたけの 君が御庭の 沙羅の花 夕かたまけて 見ればかなしも

白秋
童さび 時に肩揺る 大き人の 笑ひ声さびし 沙羅の花盛り

白秋
命二つ 対へば寂し 沙羅の花 ほつたりと石に 落ちて音あり

晶子
もろしてふ沙羅の花をば手にとればことわりのままくづれけるかな

茂吉
いにしへも今のうつつも悲しくて沙羅双樹のはな散りにけるかも

茂吉
あかつきに咲きそめたるがゆふぐれてはや散りがたの沙羅双樹の花

茂吉
白たへの沙羅の木の花くもり日のしづかなる庭に散りしきにけり

茂吉
命をはりて稚き児らもうづまりしみ寺の庭の沙羅双樹のはな

茂吉
ゆふぐれのをぐらき土にほのかにて沙羅の木の花散りもこそすれ

茂吉
うつそみの人のいのちのかなしとぞ沙羅の木の花ちりにけるかも

茂吉
山のあらし一夜ふきつつ砂のへに白く落ちたる沙羅双樹の花 

茂吉
白妙の花びらひろひ新聞につつみてかへる沙羅双樹のはな

茂吉
夏ふけし山のうへにて咲き散りし沙羅の樹の花ひろひつつ居り

憲吉
山でらの夕庭にしけるしろき花あめに打たれし沙羅の木のはな

沙羅の花もうおしまひや屋根に散り 青邨

沙羅は散るゆくりなかりし月の出を 青畝

沙羅生けて平水指の朝茶かな 

沙羅双樹ぬかづくにあらず花拾ふ 多佳子

沙羅落花傷を無視してその白視る 多佳子

沙羅双樹茂蔭肩身容れるほど 多佳子

籠りつげば曇りつぐなり沙羅の花 波郷

沙羅の花捨身の落花惜しみなし 波郷

沙羅の花緑ひとすぢにじみけり 波郷

沙羅の花ひとつ拾へばひとつ落つ 波郷

花を拾へばはなびらとなり沙羅双樹 楸邨

雨搏てる沙羅の落花や石の上 波郷

沙羅散りて浄土かき暮れゆきにけり 青畝