和歌と俳句

島木赤彦

あな愛しおたまじやくしの一つびとつ命をもちて動きつつあり

はやて風吹きつくる銀杏の樹幹太くして芽ぶきおくれつ

産土神の杉の木立にはさまれる辛夷樹の花はおくれて咲けり

川をはさむ家みな低し水のうへを遠くより来るつばくらめ見ゆ

濠の水みちて静けき心よりをちかへりつつはうごく

亀井戸のの莟は堅ければ雫垂りをり通り雨すぎて

仮り住みの暗き障子のあひだよりの花房をわが仰ぎ見つ

赭土の山の日かげ田にげんげんの花咲く見れば春たけにけり

山の田に日かげをなせる楢の木の若葉は白く軟らかに見ゆ

一つ 鳴き止みてとほき蝉きこゆ山門そとの赤松林

水無月の曇りをおびて日の沈む空には山の重なりあへり

心ぐくなりて見て居り藪のなか通草の花を掌の上におきて

遠き村の火事の火見ゆる山のなか郭公鳥は夜を鳴きて居り

岡の家に妻と起きゐて知りにけり郭公鳥の夜鳴くことを

谿を出でて直ちにひろき川はらのの木林花盛りなり

柿の葉に青き果多くこもり居りはやて風吹くはたけの中に

雪降れば山よりくだる小鳥おほし障子のそとに日ねもす聞ゆ

木枯の吹き荒れぬれば家のうちいよよ静まり我が一人居り

子どもらのたはれ言こそうれしけれ寂しき時に我は笑ふも

雨の音聞きつつあれば軒下の土と落葉とわかれて聞ゆ