和歌と俳句

島木赤彦

時雨雲はるれば見えぬ楢山にまじりて赤きの木畑

楢山の窪みくぼみの村落に柿の果しるく色づきにけり

山あひを流るる大き川にそひて遠くさびしも北國街道

冬がれの國とはなりぬ千曲川土濁りして虹たつ雨雲

くぬぎ葉のもみぢ素枯るる空さむし山の鴉の疾くし飛ぶも

この山の小松にまじる芒の穂日は照らせども暗きかげ多し

とんぼ飛ばぬ冬とはなりぬ街なかに筵をしきて黍の穂たたく

我ひとり旅人と見ゆ大根を乾し竝べたる街のとほりに

いくつもの寺は見ゆれど鐘鳴らず冬山の町日は暮れはてぬ

あわただしき心をもてりおくつきの櫻落葉踏む我の足音

冬の雨あがりて寒し板屋根の低くそろへる街を見おろす

北に向ふ道はてしなし冬がれの山低くなりて川ひろがれり

風邪ひきて二人の子ども寝て居りと故郷の妻ゆ告げこしにけり

おのれ盛りて飯を食べをり窓の曇りいよよ曇りてみぞるる音す

うどん売る声たちまちに遠くなりて我が家の路地にふる音

一人して二階を戸ざすたそがれの霙の雨は雪となりをり

霙雲低く下りゐる街筋に夕のあかり早くつきたり

夜の街に電車の音の絶えしより時を経たりと思ひつつもの書く

霜のおく夜や更けぬらし天井の鼠さわぎて燈の搖る音す

一人して居れば思ふ妻も子もこの夜の更けに眠りつらむか

家裏の桑の畑によごれたる古雪たたき雨降りしきる

わが室に子ども騒げどもうるさからず物書きとほす元日二日

みじか日の障子あかるし時をおきて裏山の風冬木を鳴らす

昼すぎとなりて日あたる縁さきの牡丹の冬芽皮をかぶれり

池水の底ひに見ゆる睡蓮は葉になりにつつ未だ短し