和歌と俳句

山口誓子

凍港

踊り子や除夜の淑女を眼に愉む

踊りつつ異国の旗の下の除夜

除夜たのしワルツに青きひかりさす

踊り子も冷たきものを飲める除夜

ジヤズバンドはしやぎて除夜も深まれる

踊り子の顔つくろへり年ゆけり

歓楽のジヤズに年去り年来たる

外廊の燈消されけり年果つる

歓楽のジャズに年去り年来たる

新婚暖炉は壁に燃ゆるなり

ははびとの暖炉くべます新婚

新婚暖炉がこぼす美き火屑

新婚高麗の壺炉の棚に

海は入渠の船のうすき煙

起重機の手挙げて立てり海は春

春潮に海女の足掻きの見えずなる

卒業のオルガンなれるかの病舎

卒業の日の病棟に在る患者

卒業のうすきけはひをけふはしたり

卒業の看護婦人の子を抱くも

湖に飯盒漬けてキヤムプあり

キヤムプ寝て高嶺の雲は海となる

扇風機真白し船の客となる

夏暁のなほ白燈の船あはれ

朝焼や太き煙突汽笛ならす

朝焼に通風筒は並立てる

日覆より午後三点の鐘なれり

艫に張る一枚日覆艫をかくす