和歌と俳句

山口誓子

凍港

花過ぎしゆすらや茱萸や登山道

鳰鳥の息のながさよ櫨紅葉

三室山桑の葉黄ばむ道来れば

かの巫女の手焙の手をを恋ひわたる

天邪鬼夜番の柝にめつぶれる

の堂吉祥天女壊れます

落ち羽子に潮の穂さきの走りて来

遣羽子や海原かくすさうび垣

繋りたる鞆の港や羽子日和

蝌斗生れて畝火の溝におよぐなり

鞦韆や舞子の駅の汽車発ちぬ

あがり来て忍坂の凧峯をちかみ

鷺の湯を舞ひ獅子の顔覗きけり

壷焼や海女のいとなみ居つつ見ゆ

巨き船造られありて労働祭

飼屋の灯后の陵の方にまた

塔中の僧門の子に星まつり

白樺の皮葺きたれや避暑の宿

避暑の宿まどゐの洋燈暗けれど

妹とゐて俳諧のたのしけれ

妹が居の宰相山も夏祭

七月の国灼くる見ゆ妹が居は

空蝉を妹が手にせり欲しと思ふ

手花火に妹がかひなの照さるる