和歌と俳句

山口誓子

凍港

深海に青き魚すめり走馬燈

走馬燈青女房の燃やしぬる

青海のめらめらと燃ゆ走馬燈

走馬燈地にうつされて燃えてゐる

七夕や旅をわが来し地獄村

七夕や真赭の地獄湧きたぎつ

七夕竹たぎつ地獄の辺に立てる

七夕や偏照光のさせる地獄

大旱牛頭馬頭に逢ふ地獄村

悪鬼ゐて地獄たぎらす大旱

大旱や泥泉地獄ふつふつと

地獄見て憤ろしも大旱

蟷螂の鋏ゆるめず蜂を食む

蜂舐ぶる舌やすめずに蟷螂

紅き帆の練習船の走馬燈

走馬燈船の上にも海を描く

舳のかるき舟に男女や走馬燈

走馬燈死にゆくふたり舟を漕ぐ

青潮の流れ著き走馬燈

蟷螂の生れて既に永とゐる

曾て世の男女の情や近松忌

さかりばに鉄骨立てり近松忌

法廷に指の悴む男女かな

悴みて囚徒抗ふこともなし

悴けたる四肢に鎖の鳴りにけり

足枷といふものはめて悴める

スケートの紐むすぶ間も逸りつつ

スケートの真顔なしつつたのしけれ

月食の夜を氷上に遊びけり