和歌と俳句

山口誓子

凍港

はたはたやわぎもが肩を超えゆけり

雲仙の秋の草々妹が眼にも

妹と行けば漆の紅葉径に斜め

たづさふや竜胆折りし妹が手を

竜胆やここに陥ちたる山の径

道の上に大安日のかな

船造るこだまは秋の稲佐山

秋の暮使徒虐殺の図にまみゆ

初瀬の駅獅子舞汽車を待てるかも

遣羽子や船渠かすみて見ゆる坂

くらがりに七賢人の屏風かな

大学の空の碧きに凧ひとつ

本堂のみ仏の燈も雛の宵

炭坑の汽車に乗り来て入学

入学や昆布ほしたる学びの舎

塩田のゆふぐれとなる遍路かな

竹落葉ひらりと蝌斗の水の上

造らるる船にとびけり葭雀

廻廊を鹿の子が駆くる伽藍かな

水なぶる童の手あり施餓鬼舟

穢土の川葭青々と施餓鬼かな

施餓鬼川百千に塵と芥かな

ひんがしの日に照らされて走馬燈

嵯峨の駅納涼電車来てはかへす

扇風器大き翼をやすめたり

向日葵のまなこ瞠れる園生かな