和歌と俳句

原 石鼎

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春の夜の三日月楠の葉がくれに

水輪たつるどの蛙鳴くおぼろかな

富士高くおたまじゃくしに足生えぬ

月うらとなりて明るきかな

鴛鴦は金網に落花は水に花曇

足投げ出せば足我前や春の海

蛤の二つに割れし白さかな

塀外へいつ蝶消えしおぼろかな

春風や旅としもなく京に来て

椿掃きし瞳に蕊の輪や弥生尽く

行く春の近江をわたる烏かな

楢よりも椿に明し春の月

春雨や刺に紅して茨の芽

雉子うちし山の寒さや春の雨

春鹿の眉あるごとく人を見し

春雷やくもりに堪へて梨花白し

芝の鹿追はれて逃ぐるおぼろかな

そのなかに角なき鹿のおぼろかな

かもめまた浪をはなれぬ春の雪

淡雪に忽ちぬれし大地かな

下萌や塀うつりゐてくらき池

陽炎や一葉の草にのぼりけり

陽炎や藪穂たれゐる遠畑

樅の雀枝移りして春日影

畳まで上らで暮れぬ春日影