八方に山のしかかる枯野かな
大石の馬をもかくす枯野かな
どん底を木曽川の行く枯野かな
板屏風どうと据ゑたる炉辺かな
借覧す甲子夜話あり榾の宿
枯菊にさし向ひをり炭をひく
柊の花のともしき深みどり
吹き当ててこぼるる砂や枯薄
水仙や古鏡の如く花をかかぐ
揚舟のかげにまはれば千鳥たつ
枯菊に虹が走りぬ蜘蛛の糸
遠き家のまた掛け足しゝ大根かな
玉の如き小春日和を授かりし
鶏頭を目がけ飛びつく焚火かな
枯菊と言ひ捨てんには情あり
鉄の甲冑彳てる暖炉かな
父酔うてしきりに叩く火桶かな
磐石を刳りて磴とす散紅葉
炭斗の侍せるが如き屏風かな
顔見世で逢ふまじき妓と出逢ひけり
枯菊に日こそはなやげまぐれ雪
鶏頭のぐわばとひれ伏す霜の土
神垣の内の別墅や年の暮
かへりみる吾が俳諧や年暮るる
追ひかけて届く鯛あり大晦日