和歌と俳句

上村占魚

1 2 3 4 5 6 7 8 9

おほまかに廻せる垣の牡丹かな

梅雨寒し教会堂の昼の鐘

視力日々に衰へてゆく暑さかな

なるまゝになれと筆すて三尺寝

潮さゝぬ川となりけり青芒

奥多摩の大石小石秋の風

痩せほそる蟷螂千草黄ばみけり

名月やほどなく立ちし橋の上

木の実ふる心に暗きこともなく

天の川家遠き子に幸やあれ

しめりある茸山の風土も亦

納屋のもの取り出してあり冬支度

夕鴉声おとしゆく枯野かな

濡縁に立てば日のあり石蕗の花

枇杷の花とり壊さるゝ土蔵かな

片時雨城址の森のまばらなる

川千鳥湯ざめおぼゆる昼さがり

ふるさとは山をめぐらし水涸るゝ

寒鴉たゞならぬ煙山にたつ

笹鳴くや旅のつかれを昼の風呂

風花や小学校の昼やすみ

晴れゆくにつれて風たつ枯野かな

合戦の紙鳶にらみゐる眼かな

夢のごとき誓ひなりけり落椿

一斉に天を仰げる木の芽かな

石鹸玉お伽のくにの夢のいろ

春愁の小さき嘘を恨みたり

家を出て心あてなし揚雲雀

潮騒の遠のき浜のあたゝけき

鬼と見し桜の中の男かな

葉桜や寺とおぼしき庭に出づ

とりあへずそこばくの送りけり

鐘ひとつ撞かぬ寺なり竹落葉

旅支度とゝのへあれば明易き

動きそめし谷の朝霧ほとゝぎす

木立もる雨後の日射や蛇苺

ふれし手に葉をこぼれたるかな

青梅や案内乞ひたる武者屋敷

蝙蝠や酒貯へてある館

昼ひなか遊べる家の日覆かな

風の日の海原青し行々子

一日の休を釣に日焼けり

川沿に立ちし夜市の人出かな

噴水や夜明け前なる星のいろ

わが家の蚊帳に一夜をしまれよ

寝ころべば水からくりのしづけさに

古里に一夜明けたり露すゞし

白萩のつめたく夕日こぼしけり

や南大手の御門跡

いさかへる鴎に秋の波あらく