和歌と俳句

種田山頭火

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ふるつくふうふう逢ひたうなつた

朝から小鳥はとべどもなけども

かうしてこのまま死ぬることの、日がさしてきた

壁にかげぼうしの寒いわたくしとして

寒晴れ、誰もゐない火の燃えてゐる

晴れてうつくしい草の葉の霜

庵はこのまま萌えだした草にまかして

夜のふかうして薬鑵たぎるなり

いつも小鳥が、南天の実の赤さはある

だんだんばたけに人がきてゐる春の雪ふる

はれてひつそりとしてみのむし

火鉢ひとつのあたたかさで足る

なむからたんのう御仏の餅をいただく

ふくらうはふくろうでわたしはわたしでねむれない

汽車のひびきも夜あけらしい楢の葉の鳴る

火の番そこから遠ざかるふくらう

寒空のからりと晴れて柿の木

ふくらうがふくらうに月は冴えかへる

よつぴて啼いてふくらうの月

冴えかへる月のふくろうとわたくし

恋のふくらうの冴えかへるかな

お正月の小鳥がうたひつつうたれた

お正月も降つたり照つたり畑を打つ

降つては晴れる土にこやしをあたへる

木の実があつて鳥がゐて山がしづけく

竹をきる風がふきだした

風ふく日かなほころびを縫ふ

いちはやく伸びて咲いたるなづなであつた

握りあはした手に手のあかぎれ

ほほけすすきのいつまでも春めいてきた

雪をかぶりて梅はしづかなる花

雪、最初の足あとで行く

雪へ轍の一すぢのあと

雪をふんで郵便やさん よいたよりを持つてきた

雪ふる 火を焚いて ひとり

ひとつやに ひとりの人で 雪のふる

ゆきふるだまつてゐる

春の雪のすぐとける街のいそがしくなる

雪の小鳥がかたまつて食べるものがない

すすきに雪の、小鳥はうたふ

誰も来ない木から木へすべる雪

雪あかりの、足袋のやぶれからつまさき

雪のあかるさが家いつぱいのしづけさ

春の雪のもうとけて山のしめやかないろ

このみちいつもおとしてゐる枯枝ひらふ

少年の夢のよみがへりくる雪をたべても

濡れて枯草の水をくみあげる

こやしやつたらよい雨となつた葱や大根や

一つあれば事足るくらしの火を燃やす

北朗作るところの壺の水仙みんなひらいた

こちらをむいて椿いちりんしづかな机

身にちかくふくらうがまよなかの声

月がうらへまはつても木かげ

霜晴れふららかな鰹節を削ります

「とかく女といふものは」ふくらうがなきます