和歌と俳句

雁 かりがね

雁仰ぐいくばく年を距ててぞ 草田男

雁列の鉤になりゆく濃くなりゆく 草田男

雁行く方宵の新月来つつあり 草田男

新月一ついのちあまたの雁の列 草田男

雁来るや岩礁ならぶ七つ島 秋櫻子

七つ島は岩礁なれや雁渡し 秋櫻子

かりがねの声の月下を重ならず 林火

椎拾ふ袋たれたり雁のこゑ 波郷

野の吾に首をのべのべ雁来たる 青畝

雁渡し歳月が研ぐ黒き巌 林火

雁のこゑわが六尺のベッド過ぐ 多佳子

雁渡る賽の河原に石積まれ 鷹女

雁の声ききとめし顔見返され 汀女

濯ぎもの乾けばよき日雁渡る 汀女

渡る雁きらきらと目は瞠りゐむ 楸邨

宵闇の真つ向にして雁の声 汀女

聖鐘の鳴りやみて雁わたりけり 秋櫻子

雁鳴くや明治の洋燈磨かれて 秋櫻子

オベリスク雁わたるべく暮れにけり 青畝

家持の心になれば雁高し 青畝

雁鳴くや父と駈けたる膝頭 双魚

妙高へ晨のこゑの雁がわたる 

今生と思へぬ声に雁渡る 林火

沼の水月を動かし雁渡る みどり女