和歌と俳句

加藤楸邨

わたり或日思ひしごとくなる

はたとわが妻とゆき逢ふ秋の暮

父と子と露明暗の一日かな

柚子青き視野に顔あり何か言ふ

短日の疲れては見る指の先

風邪の床われに似し子を叱したり

崖の木木寒き根を垂らし乾きたり

や誰かに見られゐし夕餉

霜夜ひとり餅焼き焦す出征歌

の朱さふたたび逢はぬ人の前

蚊帳出づる地獄の顔に秋の風

立ちわかれ寒夜の坂は闇より来

灯を消すやこころ崖なす月の前