榊棄つ葬のあとの秋の波
玉串の漂ひゆかず秋の浜
陸の上に遅るこゑごゑ雁わたる
つきぬけて天上の紺曼珠沙華
秋の浜見かへるたびに犬距る
庇より墜ちし蟷螂斧すすめ
渡り鳥夕日に翳をわきばさみ
鵙啼けり樹下の黒土掘り起す
鼻腔よりしづかなる息鵙の昼
かりがねのこゑするたびに吾を隔つ
ゆく雁の眼に見えずしてとどまらず
ゆく雁のこゑあとさきに落ちて過ぐ
雁のこゑすべて月下を過ぎ終る
秋没日松は花よりくれなゐに
つきぬけて天上の紺曼珠沙華
静臥の身寒き分秒過ぎゆけり
海の村寒き金星一顆のみ
わが島根寒月照りて浸し得ず
こがらしと東西に顕つ宵の星
雪の上天明到ることはやき
雪敷きて海に近寄ることもなし
夜の雪遮二無二海の中へ降る
海人たちをしぬぎし焚火すぐ衰ふ
鵯海をわたらむとして木に射たる