和歌と俳句

山口誓子

七曜

機関車の寒暮炎えつつ湖わたる

こがらしと馳せつつ犬は顧る

冬浪とともに碧海湖に入る

涯なく冬浜おのれ堪へざらむ

夜に着きし海辺ぞ凍てし鶴のこゑ

爛爛たる星座凍鶴並び立つ

凍鶴は夜天に堪へず啼くなめり

冬浜にひとりのわが身紛れたる

冬浜に鳥翼ながくとどまらず

冬浜にこころ虔しみ日を見送る

こころ吾とあらず毛糸の編目を読む

畝火山艮の樹間火を焚けり

新年の病臥の幾日既に過ぎ

梅挿せば濡れし枝枝さし交す

活けし一枝強く壁に触る

麗しきの七曜またはじまる

蝌蚪曇りなほ三月の日のごとき

一隅の蝌蚪の偏りひたすらなる

水増えてゆきかふ蝌蚪の高くなりぬ

むきむきにゆく蝌蚪を見て術もなき

月日過ぐも長けしこと思へば

鴉何処までも晩春の茜の中

晩春の午後の静臥の雲多き

静臥の儘春日落ちてただ茜

春の暮鴉は両翼垂らしとぶ

前髪に朝日赫奕入学

虻翔けて静臥の宙を切りまくる

虻抱きてぢぢとなき落つ地の上

春の蚊の燈のほとり過ぎ顧みず